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潮騒
第7章 衝撃 ー時化ー
だが、それだけでは不義とは云えぬ。
今この場で菊乃が踏み込めば。
離縁の理由くらいにはなっただろうか。
いや、接吻だけでは。
それに証拠があるでもない。

ふたりが知らぬ存ぜぬを通せば、菊乃の味方など誰も居ない。
これで腹を立てて家を出たところで行くところもない。
きっと母にはそれがどうしたと一蹴されるのが関の山だ。
この程度で大騒ぎして狭量な嫁よと笑い者になるだけなのだろう…

でも。
それでも。

今まで労多きなりに幸せだと感じた、結婚生活が、
抱かれる度に感じた正一郎の優しさが、全て偽りだったのだと。

正一郎が、己を通して別の女を見ていたのだと。

知ってしまった今、正一郎に抱いてきた甘い気持が霧消するのを感じた。

全て、泡沫の夢だったのだ。

今日の今日まで愛されていると信じていたのに。

己が愚かさに、涙も出なかった。
哀しい笑いが込み上げるだけ。
菊乃は乾いた溜息をひとつ吐いた。
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