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潮騒
第2章 身代わりの花嫁 ー風波ー
村中親戚のような田舎の小さな集落で、山や広大な田畑を持つでもない、財もなく、本家でも旧家でもない家など、継ぐ者がなく潰れたところで誰が困るのかとも思うが、祖父母はそんな家でも残したかったとみえ、遠縁を頼って大阪から養子を貰った。
いざ迎えたはいいが、どうにも頼りにならぬぼんぼんだった為、早急に身を固めよう、と目合されたのが母だ。
幼い頃に両親を流行病で亡くし、下働きをしながら弟妹を育てた苦労人の母は、父とは対照的に現実的で厳しかった。
母は、借金という弱みがあるこの縁談は断れぬ、さりとて病弱な姉を嫁がせて、子が産めぬの家事が出来ぬのと難癖をつけられても困ると断じたのだろう。
つまりは人身御供というわけだ。
踞ったまま、膝に顎を埋め、川面を眺める菊乃に、父はいつもの調子でニッと笑った。
「大丈夫や。大した事やない。嫌ンなったらいつでも帰ってこい。せやけど一週間はおらなあかんで?ちょっとした旅行みたいなもんや、なぁ?」
父の笑顔に、つい釣られてプッと吹き出す。
嫌になったら帰ってこい、という父の言葉を胸に仕舞い、菊乃は立ち上がった。
いざ迎えたはいいが、どうにも頼りにならぬぼんぼんだった為、早急に身を固めよう、と目合されたのが母だ。
幼い頃に両親を流行病で亡くし、下働きをしながら弟妹を育てた苦労人の母は、父とは対照的に現実的で厳しかった。
母は、借金という弱みがあるこの縁談は断れぬ、さりとて病弱な姉を嫁がせて、子が産めぬの家事が出来ぬのと難癖をつけられても困ると断じたのだろう。
つまりは人身御供というわけだ。
踞ったまま、膝に顎を埋め、川面を眺める菊乃に、父はいつもの調子でニッと笑った。
「大丈夫や。大した事やない。嫌ンなったらいつでも帰ってこい。せやけど一週間はおらなあかんで?ちょっとした旅行みたいなもんや、なぁ?」
父の笑顔に、つい釣られてプッと吹き出す。
嫌になったら帰ってこい、という父の言葉を胸に仕舞い、菊乃は立ち上がった。