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潮騒
第9章 正一郎 不在の夏 ー大時化ー
翌年の夏…

産月を迎えた頃、鮑とサザエの解禁日を迎える。
毎年貝を売っては何十円もの収益を上げた菊乃にとって、海に潜れぬというのは拷問に近かった。
潮の流れは急だが、穴場があるのだ。
穴場が誰かに荒らされはしないか、と気が気ではなかった。

正一郎と菊乃の絆が強くなってから、少しなりを潜めたヨシの嫁いびりは、正一郎が出稼ぎに出てから再び盛り返していた。
菊乃は苛々しながらも、受け流した。

「皆が潜って稼ぎよんのにお前は高みの見物か?ええ身分やの。」

今朝もヨシの嫌味が始まる。
窘める役の耕太郎が入院中で家に居らぬから嫌味は天井知らずだ。

五月蝿い婆ァ…私やって潜りたいわ!

心の中で悪態をつき、菊乃は腹をひとなでした。

「正一郎さんに、無理はあかんて言われとりますんで。」
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