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潮騒
第9章 正一郎 不在の夏 ー大時化ー
白装束に腰につける錘、貝を入れる網の袋に足ひれを持ち、手に持った鑿は、岩に貼り付いた貝を剥がす為に使う。そしてそれには、鼻まで覆う丸い水中メガネを引っ掛けていた。

浜に向かう道すがら、菊乃の出で立ちを見た村の者は皆目を丸くする。

「お前…そんな腹して海になんぞ入れるもんか!」

「悪いことは言わん、腹の子に障るから止めとけ!」

「お袋さんには儂からよう言うたるから、家に戻れ」

「無体な…嫁にそないなことさすやなんて、ちと考えたりゃええのにのう…」

菊乃の身を案ずる者、眉を潜めてヨシを非難する者、それらを振り切って、菊乃は浜に赴いた。

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