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潮騒
第9章 正一郎 不在の夏 ー大時化ー
腹が張って、カチカチになっている。

ギュッと絞られるような、痛み。
マズい…

腹を抑えて屈んだ菊乃に気づいた者が周りに集まってきた。

「ほら、言わんこっちゃない!」

「冷えたんじゃ。これ被っとけ!」

着替えの乾いた着物を肩に掛けてくれる人があり、菊乃は震えながらその着物に包まった。

青い顔で着物を掻き寄せ、震える菊乃。

だがしばらくすると、その痛みもふっと楽になってくる。

…これはもしや…陣痛…?

血の気が引くのがわかった。

だとしたら動けるうちに家に帰らないと。

ゆっくりと立ち上がり、着物を貸してくれた人に声をかける。

「…すまんけど、これ借りてもええですか?後で洗ろて戻します」

「おぉ、持ってけ持ってけ!大丈夫かい?」

「今、ちょっとマシやから…」

「おぃ、誰かついて行ったれ。あともうひとり、誰か家のもんに知らせたれや」
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