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いとかなし
第12章 まちいでても いかにながめん わするなと
足元をそっと盗み見るけれど、シャワーに流されて何もそれらしきものは残っていない。

「糸」

啓司の声に肩がすくむ。

「糸?こっち見て?」

「い、イヤです!」

頑としてシャワーの引っ掛ける所を握ったまま下を向く。

「…糸、お漏らしじゃないよ?」

「っ!!だって!」

勢いよく振り向いた糸の目には涙が溜まっていた。

「気持ち良すぎて潮吹きしただけ」

「そ、んなの…知らない…」

また俯いてしまう糸をキスで掬いあげる。

「ンッ…」

「初めて?」

落ちていく視線を、顎を指で引き止めて肯定する涙目に微笑んでみせる。

「嬉しい、俺でそんなに気持ちよくなってくれたなんて、嬉しすぎる」

「そ、うなの?」

「そうなの!」

啓司は温まったシャワーで糸の体を流した。
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