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いとかなし
第15章 ゆうづきし おおいなせそくも
啓司の声がよく聞こえない。

狼狽える糸の様子に予感した賢都が糸の上司に早退を依頼した。

真っ青な糸に上司は賢都に付き添うよう指示し、冷たくなっている糸の手を引いてタクシーに乗った。

「どうしよう…ふゆ、ふゆが…」

「大丈夫、糸さんは間に合うよ!」

ぎゅっと握った賢都の手の温かさに縋るように糸は目を瞑り願った。

「糸さん!ふゆが待ってる!」

背中を押されながらタクシーを降りると、玄関先で啓司が待っていた。

一瞬、啓司と賢都の視線が交わり、賢都は会釈した。

啓司も一礼し、糸を支えるように家へと入っていく。

「間に合うよ、きっと」

賢都は姿が消えたのを確認して会社へと戻っていった。
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