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いとかなし
第15章 ゆうづきし おおいなせそくも
「酔ってるよね?そのまま酔ってて、俺、最低な男だから」

「…ぇ…ンッ…」

人目から覆うように賢都の唇が糸の言葉に覆い被さった。

「賢…都…」

「電車、来ましたよ」

すし詰とまではいかないが、身動きの取りづらい程混んだ車内で、糸は賢都と向き合う形で密着していた。

今起きたことがうまく飲み込めない。

キス?

事故?

電車が揺れるたびに賢都の吐息が耳を掠める。

自分だけが意識している気がして俯いた。

鞄の中でスマホが震えているが、この状況ではとても取れそうにない。

駅に着いても、賢都は糸の横を歩く。

「賢都くん、あの、本当にもうここでいいから」

改札を前にして、人波から外れると糸は賢都に向き直った。

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