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いとかなし
第16章 あをまつと きみがぬれけん
終電まであと2本。

足早に行き交う人波とは正反対に、向き合ったまま立ち止まっていた。

「糸さん」

ぎゅっと握られた手が、賢都の口元へ持って行かれる。

「賢都く…」

「好きです」

形となった吐息がかけられる。

「彼氏がいる事も知っています、ただ…ただあなたを好きだって気持ちが止められないんです」

真っ直ぐな想いに胸が熱くなる。

「だから…俺を嫌いだと、顔も見たくないと、声も聞きたくないと…あなたを好きでいる俺を否定して下さい、今、目の前で」

口の端が少し上がり、その眼は熱を帯びていた。

「今…あなたの眼に俺が映っていることすら、俺には喜びでしかないから…俺の入る隙間なんて1ミリもないって言って」

真剣な熱は握った手から伝わる。
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