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いとかなし
第16章 あをまつと きみがぬれけん
「今更?」

思いがけない台詞に、糸はぽたぽたと堪えきれない涙を零した。

「嫌?」

否定したいのに言葉が出てこない。

「嫌じゃな…ぃっ…」

家に戻ると、啓司はそのまま糸を自分の部屋へと引き込んだ。

「ここで寝て」

初めて入る啓司の部屋。

山積みになっている文献の数々と、セミダブルのベッドがあった。

「で、も…」

「ちょっと目を離すとふらふらするから、不安なんだ」

「え?」

「…誰を想ってもいいけど、最後は俺にして」

啓司がベッドの端に座ると、ベッドは僅かに軋んだ。

「…他の男に触れられてんじゃねぇよ」

唇を尖らす啓司。

「糸は隙があり過ぎ!危なかしくて…本当…苛つく」

ぐしゃと頭を抱えた啓司に、糸は抱きついた。
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