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いとかなし
第16章 あをまつと きみがぬれけん
ズッ…と鼻をすする糸。

何に対して涙が滲むのか自分でもわからない。

「どこに行こうとしてるの?」

顔を上げるとそこには啓司が立っていた。

「…あの家以外の…何処へ行く気?」

糸は分からないと無言で首を振る。

「何処にも行かせないから」

「だって私…啓司さんのそばに居る…のは…」

「離さないっていったよね?」

それはどう取れば良いのだろう。

「帰ろう」

差し出された手を握っていいのだろうか。

躊躇う糸に、啓司は腕を取った。

向き合った啓司のこめかみから汗が滴っていた。

「探して…くれたの?」

「当たり前でしょ?糸は俺のものなんだよ、わかってる?」

涙が頬を伝う。

「まだ、私…啓司さんのもの…?」

不安げに啓司を見上げる。
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