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いとかなし
第5章 みをつくしてや   恋ひわたるべき
糸の気遣いに啓司は素直にお風呂へと入った。

洗い終わった食器をしまい、ゴミの仕分けまで終わっていたため、やる事はそれほど無かった。

啓司がいつも用意してくれているように、お風呂あがり用に冷たい麦茶を用意しておく。

「お先」

「甘利さん、はい」

グラスを差し出すと啓司は複雑な表情でそれを受け取った。

「甘利さん…?」

「糸ちゃん、ちょっと耳押さえてくれる?」

「?こうですか?」

糸は言う通りに両耳に手を当てた。

「…っ…俺の事、好きだよな?もう他の誰も見んなよ…お前は俺だけ見てればいいんだから…」

少しずらした指の間からそれは聞こえた、はっきりと。

「どうしたら、俺のものになってくれんの?もう優しくするのも限界…」

それだけ言って啓司は糸の手をゆっくりと外した。

「さ、俺もう寝るね!糸ちゃんもゆっくり寝るんだよ?」

すっきりした笑顔で二階へと上がっていく啓司を、真っ赤な顔で見送った。


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