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いとかなし
第7章 ひとしれず おもえばくるし
酸味のあるケチャップライスと甘めの卵が絶妙で、啓司はあっと言う間に平らげた。

「美味しかった、ご馳走さま!」

「いつもご馳走さまです」

自然に溢れた笑顔に、啓司は意を決して口を開いた。

姿勢を正して、糸を見据える。

その覚悟する姿に糸は構えた。

「好きです、俺と付き合って下さい」

あまりに真っ直ぐな告白に糸は言葉を失う。

「キス、覚えてる?」

言葉より表情が如実に語っている。

「忘れてても、思い出させるだけだけど…もし、あの涙が俺の気持ちを疑ってるからだとしたら、それは違うから」

「…甘利さんは…優しいから…」

「優しいふりしてた」

「嘘です」

草野球の時もあんなに周りに慕われていた啓司の優しさに振りなどない。

それだけは糸は強く否定した。
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