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kiss
第11章 neck
朝の光に手をかざし、ネイル具合を確認する。
「んー。その新人ちゃんは今夜空いてるの?」
携帯を耳に当て、肩を上げて器用に落ちないようにしながら会話を続ける。
カチカチと爪を擦り合わせ、装飾の並びに視線を這わせる。
今年の新色って結構淡い感じなのね。
冬に入るからもう少し真紅と藍を強めればよかったかしら。
掌を返す。
ああー……もう皺が出てるぅ。
「そーう。じゃあゲンちゃん信じて指名するわ。六時にうちに来させてちょーだい」
部屋を見回す。
若い子が来るならもう少し片付けておこうかしら。
クッションをベッドに投げ、散らばった雑誌を重ねていく。
「ゲンちゃんも空いたらたまには相手してよぉ」
あ、この服もう着ないかな。
籠にはらりと落とし、ぺたぺたと音を立てながら裸足でキッチンに移動する。
「またそんなこと言ってえ……アタシの新しい髪色も見てくれてない癖に。はあ? もう、いいけどあのことは。ていうか恵子ちゃんはどうなったの? ああ、そう。最近お店来ないのよ。うん。ゲンちゃんからも言ったげてよ」
冷蔵庫を開け、今朝作ったジュースを取り出す。
ドロドロのままコップに注ぎ、ベッドに戻る。
室温に戻してからの方がいいのかしら。
「ええっ。ゲンちゃん髪切っちゃったの? なんでえ?」
長髪に髭面の彼に惚れてたのに。
勢いでぐいっとジュースを一気飲みする。
「はー……っ。え? ビールじゃないわよ。まだ四時なのに飲むわけないでしょ? なに、ゲンちゃんは飲んでるの」
そこでやっと携帯を手に取る。
「あ、そう。そろそろ時間よね。じゃあ六時に期待してるわ。葵くんだっけ? はあーい。またよろしくね」
ピッ。
切った携帯をサイドテーブルに置き、無造作に結んでいた髪を下ろす。
亜麻色のカールがかった肩までの髪。
わしわしと掻きながら整える。
もう少し伸びたらストレートにしようかしら。
時計を見上げる。
黄色いカーテンを貫いて夕日がカーペットを舐める。
あと一時間半か。
どうしよ。
カチャトラの食材用意してあったんだっけ。
作っとこ。