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kiss
第11章 neck
ぐつぐつと弱火で煮込んでいると、チャイムが鳴った。
「きゃっ」
やだ。
本当にびっくりしちゃったじゃない。
落ちたお玉を鍋の縁にかけ、服に汁が飛び散っていないか急いで確認する。
うん、大丈夫。
「はあーい」
インターホンも確認せずに扉を開ける。
「どうぞ」
「あ、はい」
目の前に立っていた男を下から見上げていく。
ベージュのパンツに、青いシャツ。
立てた黒髪に銀色のカフス。
二重のぱっちりとした眼は小動物っぽいけど、どうかしら。
少し暗いわね。
「……ご指名ありがとうございました」
「べつにー? ほら入って入って。今夕飯仕上げちゃうから」
くるんとキッチンに踵を返した途端、ぞくぞく視線を感じる。
フフ、見てるわあ。
先に部屋に入った葵が立ち尽くしているので、全身を眺めまわす。
「二時間ですよ」
「そうねえ。ゆっくり出来るわよ」
不思議そうに首を傾げる葵にウインクする。
「いつもそうなんですか」
「敬語好きじゃないの」
「……いつもそうなの」
「見慣れない?」
エプロンの裾をクイと持ち上げ、太股を見せる。
下には何も着ていない。
「見たことない……っていうか。寒くないの?」
「色気ありそうでない質問ねー」
火を止めて蓋を閉じる。
あとは蒸らして、三十分もすれば完成ね。
「これから汗だくになるもの」
「あ、えと名前……」
「江美」
「えみ……」
「あら? 本名の方訊いてた?」
「答えてくれるの? 俺に」
ふっと。
大人びた微笑みを浮かべて。
十代に見えるけど、違うのかしら。
葵の頬に手を掛け、耳元に囁く。
離れたとき、唇を舐めて笑う。
「男らしい名前でしょ」
「江美のが似合ってる」
低い声で言われるとぞくぞくする。
「俺の名前さ、あんま好きじゃないから羨ましい」
「今どき男の子でも葵は珍しくないわよ」
トン、とベッドに肩を押して座らせる。
ギシリ。
葵が挑発するように自ら横たわる。
上目遣いに見上げて。
その顎に指をかけ、身をかがめる。
鼻が当たりそうな距離で止まる。
吐息がぶつかった。
二秒ほど見つめ合い、葵がぐいと引き寄せた。
「んん……っ」
いきなり舌が侵入し、ぞくりと悪寒が走る。
眼、閉じないなんて卑怯じゃない?
その視線の冷たさに頭がぼーっとしてきちゃう。
ゲンちゃん、流石。