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kiss
第11章 neck
見たことの無い瞳がギョロリと横を向く。
獲物を探すように。
「……殺してやりたい」
殺意の籠った確かな声で。
そっと飯塚の頬を撫でる。
「いいの。もう死んだから」
「え」
瞳に光が戻る。
ええ、そう。
その眼の方が小動物の貴方らしいわ。
「一応はね、バックも大きな会社だったから。担当に報告はして、多額の賠償金とその取り立てで自殺しちゃったの」
だから、もうそいつはいない。
この世に。
でもね。
でも、そいつに似た奴はきっと蠢いている。
何万人もね。
だから、怖いの。
「もちろん、貴方がそんな人間だなんて思ってないわ。けど、譲れないの」
飯塚の唇が何かを言いたそうに開きかけたが、息が洩れただけだった。
ええ。
いえるはずがない。
体験したことの無い人間に、何も。
「僕こそ、失礼しました……あったその日に自宅に誘うなんて」
「んーん。素敵な誘い文句だったと思う。アタシじゃなければきっと行くわ」
お願い。
黙らないで。
沈黙が嫌いなの。
「駅に急ぎましょう」
歩きかけた身体を引き寄せられ、唇を重ねられた。
「ん……」
目を急いで閉じる。
舌は入ってこない。
ただ、お互いを確かめ合うようなキス。
こんな純粋な触れ合いをしたのはいつだったかしら。
わからない。
したことさえも定かじゃない。
吐息をぶつけて離れる。
飯塚は眼を潤ませて、悔しさに震えているようだった。
「本当に……っ、一目惚れでした」
「ええ。嬉しかった」
大好きよ。
素直で、純粋で、精一杯な貴方が。
身をゆだねてしまいたいほどの優しさが愛しくて。
たまらない。
でもきっと、足りない。
アタシをここから連れ出してくれるには、足りない。
首元の寒気を取り除くには足りない。
「今夜、店に来れる? 慎二さん」
「……きっと」
今は、まだ。
それだけ。
だからね。
待ってみようかしら。
期待してみようかしら。
夢を見てみようかしら。
この人に。
幸せを。
将来を。
安心を。
「きっと、行きます」
改札の音が聞こえる。
大勢の人の足音が。
束の間の別れ。
そう、信じてみよう。
「さようなら」
また逢いましょう。
「さようなら、江美さん」
いつか。
いつか、家に行きたいから。
それまで。
どうか。
獲物を探すように。
「……殺してやりたい」
殺意の籠った確かな声で。
そっと飯塚の頬を撫でる。
「いいの。もう死んだから」
「え」
瞳に光が戻る。
ええ、そう。
その眼の方が小動物の貴方らしいわ。
「一応はね、バックも大きな会社だったから。担当に報告はして、多額の賠償金とその取り立てで自殺しちゃったの」
だから、もうそいつはいない。
この世に。
でもね。
でも、そいつに似た奴はきっと蠢いている。
何万人もね。
だから、怖いの。
「もちろん、貴方がそんな人間だなんて思ってないわ。けど、譲れないの」
飯塚の唇が何かを言いたそうに開きかけたが、息が洩れただけだった。
ええ。
いえるはずがない。
体験したことの無い人間に、何も。
「僕こそ、失礼しました……あったその日に自宅に誘うなんて」
「んーん。素敵な誘い文句だったと思う。アタシじゃなければきっと行くわ」
お願い。
黙らないで。
沈黙が嫌いなの。
「駅に急ぎましょう」
歩きかけた身体を引き寄せられ、唇を重ねられた。
「ん……」
目を急いで閉じる。
舌は入ってこない。
ただ、お互いを確かめ合うようなキス。
こんな純粋な触れ合いをしたのはいつだったかしら。
わからない。
したことさえも定かじゃない。
吐息をぶつけて離れる。
飯塚は眼を潤ませて、悔しさに震えているようだった。
「本当に……っ、一目惚れでした」
「ええ。嬉しかった」
大好きよ。
素直で、純粋で、精一杯な貴方が。
身をゆだねてしまいたいほどの優しさが愛しくて。
たまらない。
でもきっと、足りない。
アタシをここから連れ出してくれるには、足りない。
首元の寒気を取り除くには足りない。
「今夜、店に来れる? 慎二さん」
「……きっと」
今は、まだ。
それだけ。
だからね。
待ってみようかしら。
期待してみようかしら。
夢を見てみようかしら。
この人に。
幸せを。
将来を。
安心を。
「きっと、行きます」
改札の音が聞こえる。
大勢の人の足音が。
束の間の別れ。
そう、信じてみよう。
「さようなら」
また逢いましょう。
「さようなら、江美さん」
いつか。
いつか、家に行きたいから。
それまで。
どうか。