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kiss
第12章 eye
「なあなあ、お前らって付き合ってんの」

 きっかけはその質問だった。
 双子の俺らは、学年もクラスも同じで常に一緒にいた。
「は?」
 兄ちゃんはくわえていたストローを落として苦く笑う。
「なんでだよ」
 俺は笑いながらつっこんだ。
 夕方のバーガーショップで高校生三人。
 いつもの放課後。
「だってすげぇ仲良いじゃん? 今だってお前寄りかかってるし」
 俺は兄ちゃんにもたれてた肩を見下ろして、なんとなく離れた。
 だが、大きな手でクイッと戻される。
「気にすんなよ。オレが寒いからしてもらってんの」
 薄型の眼鏡を整えながら、俺を見てふっと微笑む。
 ああ、そうだ。
 冬に入り始めると、いつからかいつも寄り添って座るんだ。
 それは俺と兄ちゃんにとっては普通のこと。
「同じ家に住んでっし、オナだって二人でやってんじゃねえのって噂だぜ?」
「おま……嘘だろ?」
 さらりと言われた一言に呆れる。
「バカじゃねえの」
 兄ちゃんはドストレートに一刀両断した。
「男子校だからってすぐそーゆー噂になんの、うざくね?」
「イケメン双子は特にネタになんじゃん? つかお前らモテるし」
「兄ちゃんはモテっけど、俺なんか上のゴリラにしかモテねぇよ」
「え? なにそれ」
「話してなかったっけ。先輩とメシ行ったときに告白されたやつ」
 肩から手が落ちる。
 真剣な眼が俺を捕らえていた。
「……なんもされてねえか?」
「当たり前だろ」

 会計を終えて店を出る。
 バイクだったクラスメイトはそれで帰っていった。
 俺たちは並んで家に向かう。
「あ、降ってきた」
 額に落ちた水滴を拭う。
「まじで? 傘ねぇんだけど」
「お前もないのかよっ」
 兄ちゃんは鞄を漁りながら溜め息を吐いた。
 ちょいちょいとコンビニを指差す。
「買ってこ。濡れんのやだし」
「コンビニ高いんだよ」
「仕方ねーじゃん」
 雨から逃げてきた人で溢れる店内に小走りで入る。
 来店のチャイムと店員の挨拶が同時に聞こえてきた。
「うっわ。寒っ……なんで冷房入ってんの? 十一月だろ」
「兄ちゃんなんで上着持ってこねぇの。だからいつも寒そうなんだろ」
「着ぶくれすんの嫌いなんだよ」
 濡れた靴を引きずるように傘コーナーを目指す。
 週刊紙の列を物色しながら。
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