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kiss
第2章 gloss
 同じ幼稚園。
 同じ小中学校。
 更には高校も同じで、極め付きに一人暮らしのアパートまで同じだと段々幼なじみという言葉じゃ片づけられなくなってくる。
「忍ー。ちょっとこってり系のドレッシング貸してー」
 延々とノックをしていると、隣の住民がようやく扉を開けた。
「……拓、一回死んでこい」
 低血圧絶好調の忍が真っ黒な瞳で睨みつけるが、オレはにっと笑って手を差し出した。
「人の安眠妨害がそんなに楽しいか……」
「オレそーゆー趣味はねえから。ベビーリーフが珍しく新鮮だったからサラダ作ったんだよ。なのにオレってば冷蔵庫には中華ドレッシングしか無くってマジありえねえだろ? ここはサウザンだろ? それかシーザーだろ。だからこってり系ドレッシングあったら貸してくれ」
「一人でナニ言ってんだてめぇ……そんなに草食いたきゃ家畜にでもなってこいよ」
「性的な意味で?」
 バタンと扉が閉まる。
 オレは焦って拳で叩いた。
「わーっ。嘘うそ。あと三分以内にドレッシングで仕上げないとオレの大事な野菜が鮮度を失うんだよっ!」
 鍵が開く音がしたので、即刻開く。
 ガチャン。
 しかし鎖にじゃまされた。
「……寝させろ」
 隙間からサウザンを放り投げ、忍は中に消えた。
 うまくキャッチしたオレは走って部屋に戻る。
 早くしないとシナシナになる。
 そんなの食べ物じゃねえ。

 借りたものは返すべきだ。
 オレはまたノックを続けていた。
 コンコン……
 ゆっくりした足音がしたので、扉から離れ、柱に隠れる。
 あの足音はヤバい。
 ドアノブが下がる。
「うっせーんだよっ! てめぇは脳味噌まで草なのか!」
 ガターンと勢い良く開いた扉の餌食にならずに済む。
 そっと柱から窺うと、息を切らせて長い髪を掻きあげる忍と目があった。
「ドレ……ドレッシングを返そうかなぁって」
「いらないからこの場で飲み干せ。そして塩分過剰で気絶しろ」
 寝起きに扉を蹴飛ばしたりすると、酸素が足りなくなる。
 忍はフラついて郵便受けにもたれかかった。
 すぐさまその肩を支える。
 何か言おうとしたその口の前にドレッシングを突き出す。
「マジありがとう。日曜朝の野菜タイムがお前のおかげで最高だった! 次は忍にも食べさせてやるからな、ベビーリーフ」
「……草なんか」
 そう言って忍は目を閉じた。
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