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kiss
第12章 eye

「ん、ふ、ふふ、はははっ」
「んだよ」
「ごめ。してない。一ミリもしてない」
 ブスか。
 そりゃこの顔を前にしたらね。
 笑えるって。
 かがんでシャワーヘッドを拾い上げて、そっと壁にかける。
「俺、結構わがままな彼女になるよ」
「そりゃずっと見てきたから知ってる」
「ああ、それ言われると兄ちゃんの束縛やばそう」
「とりあえず部活退部な」
「冗談」
「これは冗談」
 んは。
 笑い止まんないって。
 狂ってるって。
 湯気の立つ浴室で裸で向かい合って、恋人みたいな会話してる。
「あと絶対周りにバレないようにしないとな。兄ちゃんモテるし、彼女いないと怪しまれるっしょ」
「お前さあ、そんなことより心配することあるだろ」
「えっ、うっあ」
 唐突に股間に手が当てられて、声が漏れる。
 柔らかい唇が近づいて、鼻先が触れ合う。
 試すような上目遣いに、眉間に力がこもる。
「オレの部屋のおもちゃ全部、経験する覚悟ある?」
「……あー、ケツだけにしてくれれば」
「お前もいろいろ知ってんのな」
「尿道とかっ、痛いのやだよ!? ぜってぇやだよ!? 汚いのとか、女装とかもなしな!」
「はいはい。それだけでいいなら余裕」
「俺がやだって言ったらやるなよ」
「それは自信ないわ。そろそろ口閉じろ」
 ムッと閉じた唇に間髪入れずに唇が触れたと思うと、すぐに舌先がぬめりと入ってきた。
 溺れるようにキスに集中する。
 今までの経験なんて、記憶ごとなかったように上書きされていく。
 これはこうするんだって、これから全部教わっていくんだ。
 その先に何もゴールがなくっても。
 誰にも言えないこの時間に、浸って抜け出せない。
 後悔?
 したところで引き返せない。
 足の裏を包むヌルイ温水みたいに、心地いい。
「あ、もう一つ」
「なんだよ」
「学校では絶対やめて」
「はっ、んはははっ」
「やる気の目してんじゃん」
「しないよ。見せたくねえもん」
 ああ、安穏の学校生活が終わるみたいだ。
 でも、いいや。
 こんな気持ちいいこと、手放せないって。

 なあ、ずっと一緒に居たんだから、気づいてくれよ。
 オレの暴走をお前が止めてくれよ。
 理性はお前の役割なんだから。
 先にどうか、嫌って、止めてくれよ。
 じゃないと行先は奈落だ。
 生まれて死ぬまで一緒なんて。
 ああ、いいか。
 それもいいか。
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