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kiss
第14章 thigh
 課長が嫌いだった。

 なにかと舌打ちするとことか。

 自己管理がないことを見せつけるかのような巨体が生理的に無理だった。

 デブはむり。

 この一言で高校時代ある女子をフった。

 翌日から総スカン食らうことになったのだが。

 男女関係なくデブはない。

 そのケがあるわけではないが、引き締まった筋肉を見ると目が引き付けられるくらいには、体つきにこだわりがあった。

 自分はそういう奴等に好かれる身体らしい。

 程よい筋肉と、尻の張り。

 二十五という年齢が、射程内の男は無数だろう。

 会議明け、電車で隣に汗だくのデブ高校生が座ってきて、現実逃避に眠りについたとこまでは覚えている

「あの、君はどうしてここに?」
 だから、目覚めた場所がまだ飲み込めなかった。
 八畳くらいのフローリング。
 ベッドとテーブル。
 だが、窓もドアも見当たらなかった。
「さあ、わかんねすけど」
 そして、見知らぬ中年の男。
 課長くらいか?
 俺と同じくスーツで、ジム通いしているような、逞しい胸板。
 寝起きの偏頭痛を押さえながら立ち上がる。
 完全な密室。
 どこかで見た映画を思い出す。
 あれ。
 俺、いつ法に触れたっけ?
 つか、誘拐?
 拉致?
 水も食料もない。
 どうなってる。
 なんだ、ここ。
「ははは、参ったな。私も全く心当たりがなくてね……家に女房を置いてきてるんだが携帯が見当たらない。君は持っているか?」
 そこで初めて鞄がないことに気づいた。
 嘘だろ。
 来月の資料全部……
 ポケットを全て探る。
 あったのは、タバコとライターだけだった。
「とりあえず、一服でもします?」
 自棄な提案に、男は笑って手を伸ばした。
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