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kiss
第14章 thigh

 ぱちんと目を閉じてしまえば

 世界に一人きり

 怖いものなんてない

 愛するものなんていない

 見ているものも

 聞いているものもない

 だけどそれは

 見えない見せかけの

 世界に一人きり

「嘘をついたね」
 目を開けると、馬潟が泣いていた。
 眉を歪めもせず、無表情のまま涙を流す姿は、泣きわめくよりも此方の心を揺るがせた。
 ああ、なんてこと。
 俺を愛した人を裏切った。
 そんな罪すら感じてしまうほど。
「あのときもそうだった」
 妙な圧迫感に目線をずらし、自分の体勢を把握して愕然とした。
 両腕を胸に組んだ状態でロープで乱雑にぐるぐる巻きにされ、脚は正座をしたまま縛られていた。
 爪先が辛うじて動く程度。
「帰ってくるまで待っていると、そう言ったのに」
 頬に水滴が跳ねる。
 馬潟は異常なほど俺に顔を近づけて泣いていた。
 額を擦り合わせ、吐息をぶつけて。
「お前は死んだ」
「死……?」
 そうか。
 ああ、そうか。
 この男の標的は自分だけではなかった。
 きっと、何人も。
 こうして拘束されて。
 なにもわからないままに弄ばれて。
 愛されて。
 愛されて。
 訳も知らずに愛されて。
 息苦しいほどに。
 本当に呼吸が重い。
 音が、しないんだ。
 さっきとは違う。
 微かな物音すらしない。
 地下深くに閉じ込められた気分。
 あながち間違っていないかもしれない。
 馬潟が少しだけ顔を上げる。
 それで広くなった視界の向こうに、真っ白な布で包まれた青年を見た。
 芦田。
 死んでるのか?
 この男に殺されたのか?
「いや、自殺か」
「そうだ。その通りだ」
 心の声が聞かれたのかと思った。
 いつの間にか口に出ていたのは自分の方だ。
「芦田は死んだが、田神くん。君は生きている。しかし嘘を吐いた。だから君を殺そうと思う」
 小学生の作文を朗読するように。
 現実味のないことをすらすらと。
「芦田は死んでから私を支配した。君はどうなる」
 伸びてくる手が視界の外に。
 同時に息が詰まった。
 そうか。
 ああ、そうか。
 絞殺ってのは、愉快犯じゃないんだな。
 根底は愛情。
 でなけりゃ死に行く顔を見つめるものか。
「ほら。早く私を支配しろ」

 俺には

 それが

 早く私を止めてくれ

 そう聞こえた
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