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kiss
第14章 thigh

 芦田は

 それはそれは

 綺麗な高校生だった。

 染めなれていない茶髪を

 いつも風に揺らして

 真っ黒いショルダーバッグを

 重そうに垂らしていた。

 毎朝見かける駅のホームで

 必ずホワイトソーダを買って

 幼い喉仏を上下させて

 その姿がそそった。

 いつか

 どうにかすれば

 私の前に跪いて

 私の精液も飲み干してくれるのではないか

 そんな妄想に駆られて

「……田神くん?」
 恍惚とした笑みの芦田が重なる。
「ちゃんと、守りましたよ」
 この二時間で、狂ったのだろうか。
 臀部に力を入れ続けて。
 田神を見下ろす。
 濡れた唇を。
 犬が粗相するようなはしたない格好を。
 そくぞくと鳥肌が立つ。
 その目は懇願していた。
 快楽を。
「馬潟、さん」
 田神の頭を引き寄せ、陰部に押し付ける。
 布地越しに勃起したそれを感じとり、田神が固く尖らせた舌を這わせた。
 生でないからこその焦れったい快感。
 馬潟は体を曲げて田神の頭を抱いた。
「……っん、く、は」
 熱い息が零れる。
「馬潟……さ、開けて」
「っ、自分でやるんだ」
 かちりと歯でジッパーを下ろす。
 その隙間に舌を射し込んで刺激する。
 どこで覚えた。
 なにも知らないと思っていたのに。
 田神の頬を包んで起き上がらせる。
 目線を下ろすと、手錠された手首が赤く腫れていた。
「逃げるな。芦田」
「……あ、しだ?」
 眉を潜める田神に口づける。
 温かくて柔らかい肉。
 それがこんなにも愛しい。
「ん、は」
 唾液を流し込み、くちゅぐちゅ押し付け合う。
 生きた芦田とキスを交わしたのは三日前。
 もうその感触は忘れていた。
 田神のもので上塗りする。
「……逃げません」
 馬潟はそれを聞いて、優しく手錠を解いた。

「……逃げません」
 俺は、そこが最後だと思った。
 馬潟に鍵を解かせる最後の関門。
 従順なふりもそろそろ限界。
 演じきれば、外に戻れる。
 それだけを希望に。
 カチン。
 解放の音が響く。
 これでゲームはおしまいだ。
 逃げよう。
 田神は力の限り馬潟を殴って突き飛ばし、階下に繋がる床板を引き上げ飛び降りた。
「……嘘をついたね」
 馬潟のおぞましい声が背後から聞こえた。
 
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