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kiss
第16章 blood 未完
「君はいつもつまらなそうだね」
ポップコーンを食べるための時間だと認識していた、箱の中のどこぞの誰かの性癖鑑賞会での僕の態度は、いささか彼には不服だったらしい。
香ばしい焦げた砂糖の匂いが残る丸い器を、アメリカの路上にゴロゴロおいてありそうな下品にでかいゴミ箱に捨て、チッと無意識に上あごを舌で擦って唇を開く。
「そういう君は楽しそうだな。クレジットの最後まで、もったいぶって出てくる監督の名前のフォントにすらスタンディングオベーションをしそうな感慨深い顔をしていた。悦に浸るのは自由だと思うが、そこに同じ温度を僕へ求めないでくれよ」
我ながら鬱陶しい。
それでも冬矢は面倒なそぶり一つ見せずに、借りていたブランケットを優雅に壁の棚に置き戻すと、僕の腰に近い背骨を右手で這うように触れて、眉尻を下げて唇を持ち上げた。
「悪いとは思ってないんだ。君が俺に時間を費やしてくれているってだけでゾクゾクするんだよ。心底うんざりされても構わない。ポップコーンを食べるには少し五月蠅いな程度でいいんだ。これからも付き合ってくれたら嬉しい」
僕らは友人ではない。
仕事仲間でもない。
血縁でもなければ、恩義がある関係でもない。
金が介入する仲ではないといえば、いつも必要経費を全て出してくれる冬矢に語弊があるかもしれないが、僕らはともかくそういうものではないのだ。
「永夏、喉が渇いているだろ? 近くに一服できるカフェがあるんだ」
この関係性に名前をつけるとするならそう、恋人が一番ふさわしいのかもしれない。
「いいんじゃない。トーヤの好きに」
腰に触れる中指が少しだけ肉を押してきた。