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kiss
第2章 gloss

 肩を怒らせて歩いていると、ふっと風が止まった。
 拓が後ろから抱きしめている。
「オレも行って良い?」
「ウザイ、殺すぞ」
 しかし、忍は暴言とは裏腹に泣きそうな顔をしていた。
 涙を堪えて拓の腕に触れる。
「マジで……ぶっ飛ばす」
「オレは一度忍にシメられなきゃダメかも」
「バカ云ってないで離れろ、息苦しいんだよ」
 離れた腕を追いたくなる。
 しかし、拳を握り、歩き出した。
「財布持ってるんだろうな、拓」

「持ってるよ」
 オレはぎこちなく笑う。
 ああ。
 忍は演技が上手いな。
 これで何度目だ。
 忍。
 夢の中で、高校から幾度となく忍を犯してきた。
 けど、あれらは本当に夢だったんだろうか。
 今日の忍にオレは知りたくない現実を突きつけられた気がした。
 オレは、何回親友を傷つけた?
 何回忘れて、同じ過ちを繰り返してる?
 いつからだっけ。
 忍がオレの部屋に遊びに来なくなったの。
 いつからだっけ。
 忍の部屋にいつでも鍵がかかるようになったの。
 立ち止まったオレに容赦なく冷風がぶつかる。
「おいっ、拓! 置いてくぞ」
 オレは小走りで忍の元に向かう。
 丁度信号が赤に変わった。
「てめぇのせいで行けなかったな」
「……わり」
 忍がニィッと、冷たい笑みを浮かべる。
 オレはそれが愛おしかった。
 守りたいって思った。
「ほら、青になったぞ」
 肩をたたかれる。
 朝の日差しに照らされた黒髪が、美しく風を受け入れた。



 忍。

 お前は世界一心が広いな。

 お前みたいに我慢強くなりたいよ。

 それでもごめん。

 オレはこんなに素敵な今の仲より、惹かれるものが出来てしまった。

 好きだよ、忍。

 壊したいくらい。

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