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kiss
第1章 kiss
「なんか……随分可愛いの選んでんね」
瑞希がアカの落としたものを拾い上げ、小さく呟く。
ふわふわなネコ形のケースに入った生チョコのセット。
チャック部分までネコ。
色は淡いピンクで、目にはキラキラとラメがまぶされている。
アニメに出てきそうなコミカルなデザインだ。
「こんな趣味だったのか」
「殺すよ……圭吾」
瑞希から奪い取り、アカの手の中でネコがつぶれそうになる。
「おいおい、商品壊すな」
「櫻にだよ」
「え?」
店員がこちらを見たので、ケースの形を元に戻そうとする。
中のチョコは無事だろうか。
「明日家に呼ばれてるから。一応は妹だし、渡そうと思っただけ」
舌打ち混じりに言う。
「……わるい」
「別に。で、みぃずきも妹に?」
オレと同じ質問にうなだれる。
そうなら良かったんだが……
瑞希も少し言いづらそうに答える。
「は? そんなの五円チョコとかでよくない?」
「そういうわけにも」
「ほら、コンビニの一口サイズとかさ」
「アカ!」
尚も無表情で喋る口を塞ぐ。
すると、その目が自分を睨みつけてきた。
アイコンタクトだけで、離せと云ってくる。
背筋が冷たくなり、オレは手を離した。
「じゃあ、みぃずき明日あの男のとこ行くのかよ……」
「明日っていうか……毎日会ってるじゃん」
「車で送迎してくれてんだっけ」
「ああ」
「何もされてない?」
アカが瑞希の肩を掴む。
「……まぁ」
「嘘吐いたね」
「う……」
オレが割って二人を引き離す。
「そんなにギスギスすんなよアカ」
「してないよ」
「とりあえず、それ買ってこい」
「いや、違うのにする」
アカは表情の変わったネコを戻し、店の奥へと進んで行った。
瑞希ががくりと肩を落とす。
「金原ぁ、俺ってそんなに変なことしてる?」
「さあ」
三十分後。
三人は別の店で商品を吟味していた。
男が集まってああでもない、こうでもないと相談し合う様はなかなか奇妙だった。
「いっそ、このカカオ99パーセントとかでいいんじゃねーの」
「そんな苦いのチョコじゃない」
「好みで判断すんな、アカ」
「うーん。包装がシンプル過ぎない?」
「女子かよ、瑞希」
「……言っちゃいけないこといったね金原」
「ああーっ、キレんな。悪かった」