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kiss
第1章 kiss
「なんでチョコから選ばなきゃいけない訳? いつも一緒にいるなら好きなワインとかわかるんじゃないの」
 いまだ一つも候補が現れないのを見かねたアカが言う。
「だって先生が飲んでるやつ、ザラに十万超すし」
「どっから金が出てんだ、あの人」
 しばらくして、瑞希があるチョコの前で立ち止まった。
 近年の流行の宇宙チョコ。
 その隣を占める、ウイスキーボンボンのセットだ。
 金箔を散らした綺麗なチョコが並んでいる。
「これ、よくない?」
「ボンボンね。確かにそれなら食べてくれそうだな」
「えー。こっちのもずくチョコにしようよ」
「早くそれ仕舞って来い」
 どこから珍味を見つけてくるのか。
 アカは渋々その緑の箱を片付けに行った。
 値段は上々。
 でも、初めて目が止まったものだ。
「決めちゃえば?」
「そうだな」
 瑞希はスーツを着た店員に声を掛けた。

 店から出て来た瑞希に板チョコを投げる。
 キャッチして、一緒にベンチに座った。
 そばでは、アカが音を立てて食べている。
「なんか、さ。箱に"EAT ME"とか金文字で書かれてんだけど」
「無視して渡せよ」
「いいじゃん。食べられちゃえば」
 唇に付いたチョコを指で掬ってアカが笑う。
「お前言ってることがコロコロ変わるな」
「聞こえなーい」
 ホワイトデー前日に男三人がベンチに座ってパリパリチョコを頬張っている。
 端から見たら寂しい光景だ。
 しかし、それぞれ思い思いに明日のことを考えていた。
 瑞希は携帯をいじりながら。
「金原はどこで渡すの?」
「オレ? 映画観に行くからその帰りかな」
「なんの映画ー?」
「ロマンスナイト」
「うわっ。引く!」
「ふざけんなアカ」
 今流行りの純愛ものだ。
 ベタなカップルがワケもわからず指名手配され、二人で危機を乗り越えながら愛を深めていく物語。
 よくわからないあらすじ。
 二流の証。
 瑞希は呆れ顔で首を振った。
「金原、映画センスゼロだろ」
「瑞希まで!」
 アカが最後の一かけをくわえ、クスクス笑った。

 駅に着き、瑞希がソワソワと辺りを見渡す。
「どした?」
「この辺に先生がいるらしくて」
 さっきの携帯は類沢とメールしてたのか。
 オレもつられて雑踏に目を向ける。
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