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kiss
第6章 ignorant
「雛ー!」
え。
「雛ー?」
これは、夢?
日差しが眩しい中で、こっちに歩いてくる影。
キラキラしてる。
真っ赤な着物が綺麗に太陽を反射して。
涙が出るほど綺麗。
「雛ー!」
「ここだよっ」
大きく手を振る。
着物が止まり、それからはや歩きで向かってくる。
近づくにつれ、広がる笑顔。
「ひ、なっ」
抱きついてきた朋と倒れる。
二つの着物が重なる。
「大好き……雛」
「ぼくも。大好きだよ、朋」
パサリ。
着物が風に揺れる。
ぼくの小さな手は触れあった。
空っぽの着物を抱いて。
「間に合わなかった……」
ゆらゆら。
涙がシーソーしてる。
あの少年が着物を掴んで持ち上げた。
「間に合わなかった」
パタタ。
歪な水玉模様が広がる。
「あ、あぁ…」
「本当にごめんなさい」
絶叫が響く。
体中の空気を吐き出して。
叫ぶ。
叫ばずにはいられない。
「朋には……ムリなことだったんだ」
咽びながら叫ぶ。
「入り口までは来られたんだよ」
赤い衣を抱いて、籠った声で喚く。
「この着物をって」
「わぁああああああっっ……あ"あ"ぁあああああああっ」
「あと、これ」
差し出された簪を奪い取る。
「あ…」
「雛に返してって」
ポトン。
落ちた簪を見つめて首を振る。
ブンブンと何回も。
「いらない……」
簪を投げ捨てる。
「代わりに朋をちょうだいっ!」
少年は無表情のまま。
「お前に預けた時、なんていった!? 必ず朋を連れて……来るって…」
違う。
責める相手が違う。
ぼくが置いてきたんだ。
痛がってる朋にはぼくが必要だったのに。
逃げた。
「連れては……きたよ」
息が止まる。
見上げると、少年は繁みを指差した。
「あそこにいる」
朋。
よろめきながら立つ。
真っ黒な繁みを見つめて。
こんなに明るい昼なのに。
あそこだけが、暗い。