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kiss
第6章 ignorant
「秋倉さんっ」
「なんだ騒がしい」
駆け込んできた部下が一礼する。
「朋が抜け出しました」
「そうか……」
「秋倉さん?」
煙草を灰皿に潰す。
その手には深い切り傷がついていた。
部下が息を呑む。
「逃げる気か……二人で」
血のこびりついた簪が行く手を塞ぐ。
もう視界がぼやけて誰の手かわかんない。
目を細めて払い除けようとする。
「ど、いて」
「どこに行くの?」
ふらつく。
お尻の中が気持ち悪い。
お腹も痛い。
でも、それがどうしたって感じ。
「雛を……探すの」
細い手を掴む。
「じゃま、しないで」
「しないよ」
声の主が髪をすく。
乱れたボクの髪を。
優しく。
丁寧に。
それから手際よく結わえると、赤い簪でまとめあげた。
「キミは……?」
ぼやけた視界で少年が微笑む。
ボサボサの髪で。
シャツ一枚で。
「だれ……なの」
「案内人形」
あんなに広かった館を抜けた。
沢山の塀は越えたけど、振り返るとちっぽけなくらい小さな世界。
あんなところにいたんだ。
ズキッ。
「……っ」
殴られた場所が痛む。
でも、これは消える。
もう殴られたりしないから。
秋倉おじさん、びっくりしてたな。
思い切り刺したから。
ああ。
あれだけは、お気に入りだったのに。
朋とお揃い…
ぺたんと座り込む。
畳じゃない芝生は余りに久しぶりで気持ち悪いくらい。
「おいて、きちゃった」
汗を拭う。
走ってきたから汗だく。
凄い伝ってくる。
「ふ……ッッう」
わかってるよ。
ごめんなさい。
ごめんなさい、朋。
あれ、嘘だよ。
朋はぼくと同じ。
ずっと一緒だったもの。
ずっと……