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kiss
第7章 dear
 先輩は授業棟が違うから放課後に合流する。
 夕暮れに正門で友達とさわりないことを喋る。
「龍ってあの亜廉先輩と住んでんだろ」
「どの亜廉先輩だよ……」
「いや、マジでヤバいよなあの人」
「ヤバい? なにが」
「お前知らないで住んでんの!? 入学したときから学年の半分以上の女子にコクられて今でも彼女は二桁で、酒豪だから新歓コンパじゃ新入生も同級もみんなつぶしちゃうって噂だろ?」
「噂だろ?」
 わいわいと生徒たちが出てくる。
 そろそろだろうか。
「夜いなくなったりすんのか」
「うーん……決まって水金の夜は出掛けてくけどね」
「ほら。女と会ってんだよ」
 ダメだ。
 全然想像つかない。
「あとな、女子の間じゃスゲー言われてんだけど、あの人全身数十万のブランドの塊らしいぜ」
「あれが?」
 俺は亜廉の普段着を思い浮かべる。
 センスはいいとしても……
「これだからブランド無知はよ」
「あ。先輩きた」
 遠くからでもわかる。
 彼が歩くと女子が立ち止まりぽーっと見つめる。
 長身とあのルックス。
 彼女二桁、ね。
「じゃな、龍」
「おう」
 振り返ったとき、亜廉が目の前にいて声を上げてしまった。
「先……ぱ」
「今のダレ?」
 低い声。
 去っていった方向を冷たく睨み付ける。
 俺は友人の命の危険を感じて必死でごまかした。
「学部で隣の席の奴なんですよ。たまたま先輩待ってるときに声かけられて」
 ガシッと両肩を掴まれる。
「え」
「良かったぁああー。もう、龍が浮気したのかと思って気が気じゃなかったよ。八つ裂きと締め上げどっちにしようかなんてさ」
 最後の一行は聞かなかったことにしてぎこちなく笑う。
 この人に知られたら、友人が全員消されるかもしれない。
 確証もなく俺は震えた。
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