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kiss
第7章 dear
 部屋に戻り、夕食の準備をする。
 当番制で今日は俺なのだ。
 トントン……
 人参を刻みながら、腰にかかる重みを我慢する。
 トント……
「ふーっ」
 ガコンと包丁がスベリ、俺は耳に手を当てて振り向いた。
 息を吹き掛けた口のままの奴がいる。
「なんっっなんですか、さっきから!」
 満面の笑みの亜廉が腰に手を回して首を傾げる。
 ちなみに俺の腰だ。
「なに作ってるのかな~って」
「だったらカウンターの前から覗けばいいでしょ。危ないんですよもうっ」
「ちょっとちょっと」
 向けられた刃先を手でおさえながら亜廉が後ずさる。
「ボクまで料理しないでよ」
「しませんよ、面倒くさいっ」
「ボクまで料理……あ、これって凄く卑猥な誘い文句じゃない? ねぇ、龍」

 疲れた。
 今日はやけにしつこかった。
 ソファーにもたれて床に座る。
 携帯をいじっていると、亜廉が濡れた髪を豪快に拭きながら出てきた。
「最高のお風呂だったよー。でも二人で入りたかったなぁ」
「丁重にお断りします」
「もしかして」
 タオルを髪に巻き付ける。
 額が見えるとまた違う印象。
「アノ日?」
「どの日ですか」
 本当に脳みそ何で出来ているんだろう。
 俺の隣のソファに腰かける。
 水滴が床に垂れた。
 足の指先でそれをなぞる。
「龍」
「なんです」
 俺は器用にくねる指から目を離す。
 突然うなじから髪をかきあげられた。
 ざわりとした感触に背中が反応する。
「可愛いよね~」
「からかわないでください」
 その手を払うが、ぞくぞくは消えない。
「龍の髪ってサラサラだね。女の子みたいに天使の輪もあるし……あ。龍は天使だったの?」
「もう天使でいいです……」
 一瞬の沈黙。
 ばっと後ろから首に抱きつかれる。
 亜廉の顔が至近距離にある。
「せ、せんぱい?」
 耳元に唇を押し付けるようにして、彼は甘く囁いた。
「天使は願いをきいてくれるよね」
「なっ」
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