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kiss
第8章 reach
細く白い肌に散らばる赤い痕。
それを見ていると光樹が気づいたように笑った。
「増えてるでしょ。本当に乱暴な奴等が多くてさ」
そっと指でなぞる。
光樹はくすぐったそうに身をよじらせた。
「なんで、俺に賭けたんだ?」
ぴくりと首が震えた。
雷が鳴る。
遠くで。
「そうだねー。不思議だよね。赤の他人でしかも一夜過ごしただけの應治を巻き込むなんてさ」
右手の親指を舐めたかと思うと爪を噛んだ。
ガリッと。
あまりに鋭い音だったから、急いで手を引き離す。
血の滴が飛んだ。
光樹の唇が赤く濡れている。
ヌルリと指が血で滑る。
「なにして……」
「ほら。やっぱり優しい」
かすれた声で。
涙を呑んで。
「ねえ……王子サマって姫の願い事はなんでも聞いてくれるんだよね」
俯いたまま、表情は見せない。
返事を待たずに続ける。
「だったら、俺を連れ出してよ」
震える手で首を摩り、眼を見開く。
「もう、手遅れかもしれないけどさ」
「なにが?」
「あいつらどうせあんたを帰すつもりないし。二時間たったら二人とも無事じゃ済まない……凜のことだからエグイ道具とか用意してるだろうし」
低く呟き続ける顔を上げさせる。
焦点が定まらない。
俺を見ているようで、未来を見てる瞳。
怯えた瞳。
嘘を吐いてキセルを咥えていた余裕こそがウソのように。
「キスはしてくんないの?」
「余裕ぶるな」
「別にー」
眼が笑ってない。
時計をチラと見上げるそぶりもぎこちない。
「あと一時間半、か。大変」
「此処ってドアはあれだけだよな」
「そうだね」
入ってきた扉を見遣る。
それから眼を合わせた。
「映画みたいじゃない」
「だから余裕ぶってる場合じゃないだろ」
ギシとベッドから足を下ろす。
向こうの人間にどのくらい音は伝わるんだろう。
猫のようにしなやかに床に立った光樹がキセルを拾って咥える。
ふうっと白い息が部屋に漂う。
「ここ、四階だよ?」
窓に近づいた俺に言う。
「隣の屋根に飛び移るとか言わないよね」
「そうしたいか?」
「どうだろうねー」