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真珠浪漫物語
第3章 二人の姉妹
その夜、店じまいした店内でバーのカウンターに座り、水割りを呷る綾香。
「なんだか今夜は荒れてるなあ…どうしたの?綾香」
グラスを拭き上げながら心配そうに声をかけるのはバーテンダーの千吉だ。
男前だがまだ幼さの残る顔立ちである。
「うるさい!千!お代わり!」
カウンターにグラスを叩きつけるように置く。
「…飲み過ぎだよ、もうやめておきなよ」
おどおどと声をかける千。
千は綾香より3歳年下で弟分のような存在ゆえ、綾香に頭が上がらないのだ。
「うるさいったらうるさい!千のくせに生意気なんだよ」
千の手からボトルごとウィスキーを奪い、グラスに並々と注ぐ綾香。
「…ねえ、今日来た綺麗なお嬢様…綾香の妹ってほんと?」
おずおずと聞く千。
綾香は千をじろりと睨む。
「ケン坊だね。あのおしゃべりめ!」
「楽屋ではその話で持ちきりだったよ。…あのお嬢様、伯爵令嬢なんだって⁈てことは、綾香も伯爵令嬢⁈北白川家て麻布にでっかい屋敷があるんでしょ⁈綾香、お姫様だったの⁉︎…イテッ!…なんだよう…綾香…」
いきなり頭を叩かれる千。
「そんな話、信じるもんか。…あたしが母さんが死んでからどれだけ泥水飲んで来たと思ってんの⁈…いきなり来て、あんな絵に描いたようなお姫様にお姉様なんて言われてさ、はいそうですかって納得する方がどうかしてるよ」
グラスを呷る綾香。
ふと、昼間の梨央と名乗った美少女だがどこか儚げな顔が思い浮かんだ。

「…お姉様…!」
悲痛な叫び声が耳から離れない。
そんな声を振り払うように、彩香はぐいっと頭を上げ呟く。
「私には妹なんかいない。…あんな…お姫様みたいな妹なんて…何かの間違い。だから絶対に信じない」
「…綾香…」
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