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真珠浪漫物語
第16章 訪問者

それからほどなくした秋晴れのある午後、浅草カフェ「浪漫」のバーテンダー千吉は、北白川家の午後のお茶に招かれていた。
千が着ている一張羅の白いシャツと、黒いスラックスは母親が早起きして、アイロンをかけてくれたものだ。
貴族の屋敷に上がるなどもちろん、初めての経験だ。
北白川家から招待されたことを聞かされた近所の住人は大挙して押しかけ、
「千ちゃん、靴はあるのかい?ウチのダンナのを貸そうか?」
「千ちゃん、帽子はあるかい?息子のでよけりゃ、新しいのがあるよ!」
と、本人以上に興奮し、盛り上がったものだ。
そんな優しくもお節介な長屋の面々のおかげで千は無事に北白川家の客間の豪華絢爛な椅子に腰掛けている。
緊張して硬くなる千に、梨央は優しく声をかける。
「…千さん、こないだは美味しいおでんをありがとうございました。今日はごゆっくり寛がれてくださいね」
笑顔で、薫り高い紅茶を勧める梨央は天使のように美しく…なぜか以前にはなかった仄かな色香を感じさせるようになった。
「と、とんでもありません!今日はお招き、ありがとうございました!」
千は勢い良くお辞儀した。
『…千さんを、我が家にお招きしましょうよ、お姉様』
そう言いだしたのは梨央だ。
『…え?…でも…』
『私も色々お世話になったのだから、正式にご招待いたしましょう。…そうすれば、お姉様も千さんに堂々とお会いになれるわ』
庭でこそこそ会うのでは、綾香も不自由だろうとの梨央の優しさに、綾香は
『ありがとう!梨央!』
と強く抱きしめて感謝した。
その話を切り出した時、月城は
『…あまり感心する話ではありませんが…梨央様も綾香様もお世話になったのですから…ま、致し方ありませんね』
と、渋々承諾した。
千はキョロキョロと好奇心たっぷりに辺りを見回した。
見たこともないような名画、豪華なシャンデリア、重厚な家具や調度品、お茶を運んで来たり、お菓子やサンドイッチを運んで来るだけで恭しく出入りする黒い制服に身を包んだ下僕やメイド達…。
何よりそんな貴族生活に、すっかり馴染んだ立ち居振る舞いをする綾香…。
…ラベンダー色の立て襟のレースのブラウスに、濃いアメジスト色のロングスカート。高価そうな宝石類を自然に身に付け、生まれながらの伯爵令嬢のように美しく品格のある姿の綾香を見て、千は寂しさを禁じ得なかった。
千が着ている一張羅の白いシャツと、黒いスラックスは母親が早起きして、アイロンをかけてくれたものだ。
貴族の屋敷に上がるなどもちろん、初めての経験だ。
北白川家から招待されたことを聞かされた近所の住人は大挙して押しかけ、
「千ちゃん、靴はあるのかい?ウチのダンナのを貸そうか?」
「千ちゃん、帽子はあるかい?息子のでよけりゃ、新しいのがあるよ!」
と、本人以上に興奮し、盛り上がったものだ。
そんな優しくもお節介な長屋の面々のおかげで千は無事に北白川家の客間の豪華絢爛な椅子に腰掛けている。
緊張して硬くなる千に、梨央は優しく声をかける。
「…千さん、こないだは美味しいおでんをありがとうございました。今日はごゆっくり寛がれてくださいね」
笑顔で、薫り高い紅茶を勧める梨央は天使のように美しく…なぜか以前にはなかった仄かな色香を感じさせるようになった。
「と、とんでもありません!今日はお招き、ありがとうございました!」
千は勢い良くお辞儀した。
『…千さんを、我が家にお招きしましょうよ、お姉様』
そう言いだしたのは梨央だ。
『…え?…でも…』
『私も色々お世話になったのだから、正式にご招待いたしましょう。…そうすれば、お姉様も千さんに堂々とお会いになれるわ』
庭でこそこそ会うのでは、綾香も不自由だろうとの梨央の優しさに、綾香は
『ありがとう!梨央!』
と強く抱きしめて感謝した。
その話を切り出した時、月城は
『…あまり感心する話ではありませんが…梨央様も綾香様もお世話になったのですから…ま、致し方ありませんね』
と、渋々承諾した。
千はキョロキョロと好奇心たっぷりに辺りを見回した。
見たこともないような名画、豪華なシャンデリア、重厚な家具や調度品、お茶を運んで来たり、お菓子やサンドイッチを運んで来るだけで恭しく出入りする黒い制服に身を包んだ下僕やメイド達…。
何よりそんな貴族生活に、すっかり馴染んだ立ち居振る舞いをする綾香…。
…ラベンダー色の立て襟のレースのブラウスに、濃いアメジスト色のロングスカート。高価そうな宝石類を自然に身に付け、生まれながらの伯爵令嬢のように美しく品格のある姿の綾香を見て、千は寂しさを禁じ得なかった。

