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第21章 デビュッタント

政府主催のデビュッタントは赤坂の迎賓館で、華々しく開催された。
迎賓館の正面、車寄せでは高級舶来外車が次々と到着し、華やかに着飾った今年デビューする貴族の令嬢が降り立ち、赤い絨毯の上をやや緊張した面持ちで、しかし、澄ましながら歩きだす。
令嬢が降りた後には、その家の執事や下僕が降り立ち、影のように主人に付き添う。
デビュッタントの令嬢だけでなく、貴族のお偉方、政府の高官、海外の大使夫妻と、錚々たるお歴々が招待されているので、迎賓館の中はさながら日本の上流階級の縮図のような、華やかな顔ぶれで溢れかえっていた。

また非公式ながら、皇太子、皇太子妃両殿下がご臨席されたのち、今年デビューの貴族の令嬢に対面してくださり、お言葉をかけて下さることになっている。
その儀式を終えて初めて、令嬢達は正式に社交界にデビューしたとみなされるのだ。

…また一台のメルセデスが車寄せに到着した。
下僕が恭しくドアを開ける。
車から降り立った二人の令嬢の姿を目の当たりにした招待客は、思わず感嘆の溜息を漏らした。
今回のデビュッタントでどの令嬢よりも注目されている北白川伯爵家の二人の姉妹、綾香と梨央である。

…綾香は真紅のタフタのイブニングドレスに身を包み、髪を華やかに結い上げ、真珠をふんだんに散りばめて飾っている。
華やかな西洋人めいたはっとするような美貌に人々の視線は釘付けになる。
綾香の後に続くのは、梨央である。
梨央は純白のシフォンのイブニングドレスに身を包み、髪は華やかにカールさせ、やはり真珠を散らし、清楚ながらエレガントな装いである。
梨央の日本的な嫋やかな美貌も綾香と同時に人々の注目を集めた。
二人のドレスに共通しているのは、ドレスの胸元や、ウエスト、裾の切り替えしに、真珠が惜しげもなくデコレイトされていることである。
タイプは違うが美しい姉妹に、気高く臈長けた真珠は実に良く似合っていた。
後ろに続く月城も正式な黒燕尾服姿である。
どこの貴族の青年かと見紛うほど、美しく優雅なその容姿にご婦人方は、色めき立ち、密やかな囁き声が上がる。

大理石の玄関ホールを抜けると目の前には、赤い絨毯が敷きつめられた三つに折れた大階段がある。
…その手前に見慣れた紳士が二人、綾香と梨央の到着を待っていた。