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報酬
第1章 日常
「人にはね...ちゃんと忘却って機能が備わってるの。それがなかったらたった一日でも生きて行けないわ。脳がバグってフリーズしちゃうのよ。だからその機能がちゃんといい記憶も悪い記憶も調整してるのよ。」

「...。」

「それが私達...サキュバスなの。」

窓の外は日が落ちて暗くなっていた。薄闇の中、その者...美しいサキュバスの赤味を帯びた瞳だけが妖しく灯っている。

「君の心...そう。人はそれを心...て名付けたの。目に見えないそれに名前を付けたのよね。君の心の痛みはあの時のまま?」

「それは...。」

「あの時あんなに、死んでしまいたいほど辛かった記憶が、今はどう?」

「それは...。」

「それが私の役目なのよ。」

透き通ったその目はこの世のモノとは思えないくらい悲しく、そして美しかった。

「でも...なんでそんな君がここに?」

「そう!そこ!そこなのよ!」

いきなり脳に叫びかけてきたので驚いて尻もちをついた。

「でかいよ!声!ここ安いアパートなんだから!」

「心配ないわよ?私の声も、この完璧過ぎるナイスバディも...貴方の脳にしか映らないし、聴こえないわ。もちろん...私と交わった時のあの震えるような快感も...」

「な!...それは」

「照れない照れない!良かったでしょ?このまま童貞も捨てられないであの世に行くより。...まぁ相手は...そうねぇ...君たち人間が言うところの...悪魔なんだけどね。」

「あ...悪魔...」

「今更ビビらないでよ...ちゅっ」

「な...。」

いきなり触れたその唇の柔らかさに、すぐに言葉が出てこない。

「悪魔なんている訳ない...とか思ってる?」

「当たり前じゃ...」

「ないわ?」

まただ...。

「だったら悪魔ってなんだと思う?神様は?」

知るかよ...そんな事

「知りもしないくせに全否定しちゃうんだ?」

「...んー。」

「悪魔はちゃんと居るわ。人の脳の中に。ちゃんと居るの。それも何種類も。」

「そんなに?」

「もちろん形を成さないアストラルボディー...つまりは精神体だけどね。」

「それがどうして?」

「極、極、ごーーーく稀にこうやって具現化される事があるの...人がある条件を満たした時だけ。」

「条件て、オレは何も...」

「してるのよ。君は。」

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