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わけありっ、SS集!
第4章 ままごと遊び

小さい頃、母に抱きしめられた匂いと感触を思い出していた。
「……何? どうしたの?」
忍の戸惑ったような声が、耳をかすめた。
「なんでもない」
匂いも、薄くて硬い感触も、母とは全然違う。当たり前だ。忍は男で、別人だ。
アラームも、まな板を叩くリズムも、朝食の香りも後ろ姿も母とは違うんだ。
「……ありがと。でももう無理して俺の母親を演じなくていい」
俺は体を離して忍を見つめた。
「味噌汁もご飯も真似して作らなくていい」
忍の顔が捨てられた仔犬のような顔になる。
「その代わり、今度は洋食作れよ」
「え?」
「パンとかハムエッグとか、コーンスープとか、そんな感じの朝食にしろよ? それなら部屋に居ていいよ」
「本当にっ?」

