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わけありっ、SS集!
第1章 緋狐(ひぎつね)の宝玉

その光景に、少年は目をみはった。
そこには色とりどりの木の実があった。栗や果物、きのこまで。少年がどれほど山を歩いても、食べられそうなものなど見つからなかったのに。岩を挟んだ向こう側は、食糧の宝庫だった。
「そんなはず……」
生と死の狭間で、自分は夢でも見ているのだろうか。
少年は辺りを見渡したけれど、緋狐の姿はどこにもなかった。
さらに少年はあるものを見つけ、目を留めた。地面の上に大きな葉に包まれた、見たこともない薬草が置かれていたのだ。どこに生えているものだろう。
「これを、母に……」
自然と心に浮かび上がってきた考えだった。この薬草を煎じて飲ませれば、母は助かる。根拠はないのに、それはほとんど確信に近いものだった。
少年は、木の実をめいいっぱい貪った。甘い汁が、喉の渇きを癒し空っぽの胃を満たしてくれる。ひとしきり頬張って腕で口についた汁を拭うと、薬草を持ってすぐさま母の待つ家に向かおうとした。
その足が、ふいに止まる。岩陰のさらに奥は、今度は崖になっていた。そしてその向こうにには、見覚えのある小さな村があった。その光景にさらに驚く。

