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明治鬼恋慕
第2章 落方村

本当なら千代と親しくできる立場ではないのだが、この気さくな関係は彼女の方から願い出た事だ。
それから二年が経ち…今となっては、焔来もこうして彼女に心を開いている。
「あ…っ」
「逃げた、逃げたわ焔来っ、捕まえて」
「ええ!? あー、わかりましたよ…」
二人が言い争う最中、もう待ってられんと言いたげに仔犬が濡れ縁の下をくぐって逃げていった。
家の裏から道へ出ていく。
千代にせかされて焔来は腰を上げ、急いで仔犬の後を追った。
───
道には行き交う村人の姿がある。
夕暮れが近付き、農作業を終えた百姓達や、寺小屋帰りの子供達。
彼らの長く伸びた影を踏み飛ばしながら、焔来はぶつからないように走っていた。
「おっ、焔来が犬を追っかけてんぞ」
「自分だって千代様の犬っころのくせに」
そんな時、彼の後ろから子供達の野次が飛んだ。

