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明治鬼恋慕
第2章 落方村

「あんなの気にしないでね、焔来」
「…はい。千代様は強いですね」
「焔来が言い返さないからよ。……それに、わたしは好きだもん。焔来の顔とか、声とか」
「……」
自分で言いながら僅かに頬を染める千代。
彼女は何も知らずに少年の手を引いている。
村に住むどの女よりも美しい、焔来の整った顔。
声変わりの気配がない高めの声。
白い肌…。スラリと細い身体。
黒髪を短く切り込んだ今でさえ、女のなりをさせれば彼の性別を判断するのは難しそうだ。
そんな焔来が普通ではないという事実に、気付かないふりをして──。
「…わんちゃん見失ったね」
「俺、あっち探してきます」
焔来はさりげなく、彼女の手を振りほどいた。
家が並ぶ道からそれて、土手を越え、川の方へ。

