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明治鬼恋慕
第9章 紅粉屋
嘘などついていないのに「でまかせ」だと言い張られるのは癪( シャク )である。
二人のことは、小汚ない貧乏人としか思われていないのだろう。
「──何の騒ぎか」
焔来が再び口を開こうとした時、不意に──主屋の縁側から声がかかった。
「旦那様…っ」
「この様なお目汚し、失礼致します」
二人を詰問する男たちから「旦那様」と呼ばれた彼は、かっぷくの良い身体をした、肩衣袴( カタギヌバカマ )姿の中年男だった。
「そこに座っているのは何者だ?」
「この者たちが無断で敷地に入り込み、蔵の裏に隠れているのを捕らえたところで御座います」
「侵入者か…」
男がここの主人であることは、焔来たちにもすぐ伝わった。
ならば…
彼に話を通したほうが手っ取り早い。
それを判断して、焔来は抗議する相手を変えた。
「違います! 俺らは盗っ人じゃありません!」
「…っ…黙らんか、この方は『紅粉屋』の亭主、児嶋又左衛門殿で在られるぞ。お前のような悪餓鬼が口をきいてよい相手ではない」
「べにこや……!? よくわかんねぇし、俺は侵入したわけじゃないです!」
「この…っ」
この豪商の名前がなんであれ興味なしの焔来は、間に割ってきた用心棒の咎めをはね除けて主張を続ける。