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明治鬼恋慕
第9章 紅粉屋
たまたまこの敷地に落ちたわけだが、改めて見ると大層立派な家屋だった。
通りに面した店棟と別に、裏に主屋があり、さらに三棟の蔵( クラ )が広い庭を囲っている。
そもそも用心棒を雇える財力だ。
どこの豪商の家なのかと、想像するほど自分の失態に頭が痛くなる。
“ 面倒くさそうな所に落ちちまった… ”
連れてこられた裏庭で、地面に膝をついた焔来は大人たちに咎められていた。
もちろん隣にはリュウも一緒だ。
蔵の黒い瓦屋根からは、白い腹に白い眉をした凛々しいオオタカが二人をじっと見下ろしている。
「さぁ言え! 何が狙いだった」
「…えーっと、…正直に話しますと、屋根の上から足を滑らせたんです」
「足を滑らせただと? 侵入したのは故意ではないと申すか」
「こい? えっと、たぶんそんな感じです」
「馬鹿馬鹿しい…。その様なでまかせ」
「本当です!」
焔来は慎重に言葉を選んで、盗人の嫌疑だけは晴らそうとした。
それでも信じてもらえない。