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明治鬼恋慕
第9章 紅粉屋
「たびたびの失礼を御許し下さい、旦那様。確かに僕らはこの土地の者ではございませぬが、街に立ち寄ったのは、決して後ろめたい理由ではありません」
「…ほう」
控え目な声量で、殊勝気に弁解を始めたリュウに対して、又左衛門は顔色を変えた。
その視線は真っ直ぐ、リュウの端正な面( オモテ )に注がれている。
「ここへ迷い混んだのも故意ではありませぬ。僕たちは思いもよらず人目を集めてしまい……それを避けるために、恥ずかしながら屋根の上を移動しておりました」
「屋根の上を? それはまた面白いことを」
「仕方がなかったのです」
膝をついたままのリュウは、頭を垂れて謝罪した。
「旦那様の屋根を足蹴にしたばかりか、不注意にもこの様な騒ぎを起こすことになり申し訳ない。…どうか、一度限りのお見逃しを」
丁寧に許しを乞うその姿は、一見すると、この場をしのいで逃げ切ろうといううわべだけのものとは思えない。
そんなリュウを見て感心した焔来は、隣で彼よりも低く頭を下げた。
内心の悔しさは押し隠す。