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明治鬼恋慕
第13章 迎撃

この国の人間は「美しさ」を讃えながらも、同時に畏怖する本能を持つらしい。
曖昧な恐怖心が長きにわたり、多くの人間すらをも「鬼」として殺してきたに違いないのだ。
「──待て、そこの」
「……」
花街の出入口である黒塗りのアーチ門で、そこを通過しようとしたリュウが門番の男に呼び止められた。
素直に足を止めたリュウは、男から見えないところで隣の焔来をそっと押す。
門の前は警笛に驚いた客たちで溢れ
焔来はその人混みにまぎれてしまった。
「…何用で御座いましょうか」
「面をあげろ。お前はここの馴染みでないな?」
ひとりになったリュウは平静を装い、見張り台に立つ番男に向かって顔をあげた。
番男が目を細める。
少年だと思うが、女にも見える…。そんなリュウの容姿を用心深く観察する。
合わせた目線の間には緊迫した空気が絡まった。
「僕は客として来たわけではありません。ここで奉公している二つ違いの姉に、その…会いに行った帰りですから」
「姉だと?それはどこの女だ」
「店の名は字が読めないのでわかりません」
「…姉の名はなんだ」
「お鶴姉さんです。まだ水揚げ前の新造( シンゾウ )だそうで…ご存じないかと思います」
リュウの話す内容はもちろん、その場かぎりの嘘である。

