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明治鬼恋慕
第14章 決別
この風景は正しく、焔来が十の歳まで生まれ育った村である。
“ なんで、今さら… ”
「故郷」だと咄嗟に呼ぶことができないのは、この村へ抱いた少なからぬ憎しみが原因だろう。
農具を肩に担いで和気あいあいとした村の人間を見ても、焔来の表情は曇るだけだった。
けれど…
「母さん……!」
その村人の中に、着物の袖を襷( タスキ )で縛る母の姿を見付けた時、焔来の目の色が変わった。
土で汚れた手で額の汗を雑把( ザッパ)に拭う仕草でさえ群をぬいて透き通っている。
──綺麗だ
焔来は思わず呟いた。
「母さんのところに行かないのか」
「─…て、父さん…っ」
実の母親に見とれてどうする。
すぐ隣からの声にぎょっと振り向くと、いつの間にか仁王立ちの父がいた。