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明治鬼恋慕
第17章 冬風
『 馬鹿っ、なんで俺がそんなの使うんだよ 』
『 でもこの香木の香り…
きっと君に似合うと思うけれど 』
『 別にぃ…似合ってないだろ。
気に入ったならお前が使えよ 』
『 …僕が? まさか、使わないよ 』
....
じゃれ合うように言い争う二人の声には、親しみが滲んでいた。
それを耳にした彼女は振り返りそうになり
…だが、思いとどまった。
横やりを許さないほどの固い絆がその場の空気となって、彼等の周りを包んでいたから。
顔を確かめて、直後に泣き崩れるであろう自分の存在は、邪魔でしかないと直感したからだ。
「………ふぅ」
彼女は街路に戻り、人波に紛れる。
不思議だった。
冬の風というのは、切なさや後悔ばかりを届けるものだと思っていたのに…
今は胸の風穴に、ぽっと温かいものが灯されている。
こんな日もあるのか。
灯った明かりが吹き消されないうちにと、彼女は帰り道を急いだ。
胸に灯った温もりの正体は──
帰路につき台所に鍋を置いて考えてみても、彼女は確信することができないでいた。
いつまでも、いつまでも……。
明治鬼恋慕《 完 》
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