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明治鬼恋慕
第5章 出立

家には父と母がいた。
農具貸し出しの相談に来ていた村の男が、門の中で千代とすれ違った。
父は帰りの遅い娘をたしなめ、いつものように母が庇った。
「まったくお前ときたら、こんな時間までどこをほっつき歩いておった」
「まぁまぁ、きっと芝居屋の舞台へ行っていたのでしょうに」
「それにつけても、遅すぎる」
夕飯の準備はできていた。
本来ならば暗くなる前に食べなければならなかった。灯りだけでは手元が見え辛いからだ。
「…焔来も供していたのでしょう? それならば心配には及びませぬ」
何も言い訳を聞かせない千代の代わりに、母が懸命に父の機嫌をとっている。
ポタリ
「……おや」
ポタリ
「おやおや…千代、あなた泣いているのですか?」
「…!? どうしたその涙は?」
「ほら、また、強く叱るから」
“ そうじゃあ、ない ”
「千代……?」
「……化け物がいます」
「…っ…それは、どういう意味だ…!?」

