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鮮やかな青
第6章 輝く命
だが、それはあくまで私の場合だ。農民や商人が、全ての人間が等しく手を広げられるとは限らない。向上を求めても許されない人間や、安定した時点で満足する人間も、この世には存在するのだ。
「ふと手を止めた時、口ずさむ歌の一つも知らない人生なんて、寂しいだろう。人は畑を耕す道具じゃないんだから」
「そう……でしょうか」
真っ先に本家の安泰を考えた私は、寂しい人間なのだろうか。自分では、寂しいなどと感じた事もなかった。
「特に武士なんて、すぐに人を数字や身分でしか見なくなるからね。こうして人に触れて、皆生きているって実感しないと」
兄の論理は極めて単純だが、私の心に深く刺さる。人は道具ではない。重々承知しているつもりでも、それはすぐ忘れられてしまう事実だ。兄は茶器を撫でながら、私の気持ちも知らずに語り続けた。
「この茶器は、とある商家から、寿々の懐妊祝いに貰ったものでね。向こうの店の規模から考えると、相当無理して手に入れたと思うんだ。それだけ今回の事を喜んでくれたんだって思うと、こちらも嬉しくなるよ」