この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
鮮やかな青
第1章 兄の存在
「お主は若いが、才がある。おそらく元春や隆元殿以上の、名将となるだろう。その働き、期待しているぞ」
兄達を下げてまで私を持ち上げるとは、陶はどうしても毛利を取り込みたくて仕方ないようだ。義隆と陶の間に流れる不穏、これは近い未来、中国という地を大きく揺るがす――そんな予感がした。
「ありがとうございます。陶様、明日、また改めてご挨拶に向かわせてください。なにぶん今日はこの様でして、陶様とお話するにはいささか不相応です。身を正し、膝を突き合わせたいと思います」
「そうだな、そうしよう。では隆景、また明日」
ひとまず陶を部屋から追い出す事に成功すると、私は頭を抱えた。明日、本当に私が出向いては近くなりすぎる。ここは父を代わりに向かわせるのが妥当だろう。二人の間が、険悪になっている事も報告しなければならない。生き抜くためには、泣いている隙などなかった。
父は、別室で休んでいる。が、事態が事態だ。夜中でも叩き起こさなければならない。私は灯りを消すと、襖に手を掛けた。
ふと思い出し、私は部屋の空気を大きく吸い込んでみる。やはり、この家の夜の匂いは、薄かった。