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鮮やかな青
第2章 歪んだ性癖
ともは興味津々といった様子で隣の兄と床に広げられた紙を眺めている。そして兄は、器用にも歌いながら、筆を走らせていた。
大内の元で培われた美的感覚なのか、兄の選ぶ着物はいつでも質がいい。派手ではないが、品のある気配を着物が醸し出していた。
そしてやはりその色は、鮮やかな青。袖口から伸びる腕は、元春兄上に比べれば頼りない。筆を握る指は、細く長かった。
絵を描くためにやや伏せた横顔は、たおやかだ。見る者の気を削ぐ穏やかな瞳に、すらりとした鼻筋。口から紡がれるのは、澄んだ歌声である。それがなんの歌かは、あまり歌に関心のない私には分からない。しかし、それがともを惹きつけているのは、すぐに分かった。
兄は気配に気付いたのか、不意に歌を止める。そして辺りを見渡し、まだ遠くにいる私に気付くと、春の日溜まりのような笑みを見せた。
「久し振りだね、隆景」
第一声は、相変わらずそれだった。やはり私の記憶にある兄の姿と、こうして見る兄の姿に差異はない。
しかし私は、これ以上足が動かなかった。近付いてしまえば、熱の集まる頬に、気付かれてしまう。心臓が、壊れてしまう。おかしいのは、やはり私の頭だった。