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鮮やかな青
第3章 兄の手
「どうして隆元兄様が、ともと遊んでいるのですか?」
破裂しそうな心臓の音に理屈をかき消される中、私が口に出来たまともな言葉はそれだけだった。が、無理が喉に伝わったのか、声は思いのほか低く、まるで怒っているかのようだった。ともは私が咎めているのかと勘違いし、明るかった表情を暗くする。兄は慌てて、ともの擁護を始めた。
「ああ、僕が引き止めたんだ。部屋に案内されている途中のその子とすれ違って、これはと思ってね。声をかけたら、やっぱり小早川家のご息女だったから」
自然と女を庇い、自身が責を負う。兄の態度は、実にそつがない。だからこそ、なおさら私は面白くなかった。
「兄様は毛利の後継者ですよ。無計画に時間を使うものではありません。ご自身の立場を忘れぬよう」
「ごめんごめん、気を付けるよ」
「そんな気の抜けた様子では、父様が嘆きますよ。暇なら、元春兄上を越えられるよう鍛錬してはいかがか」
毛利家の次期当主として、兄に不備があるとは思わない。しかし戦に関しては、元春兄上の方が優れた将だった。私は行き場のない、意味もない憤慨を兄にぶつけるが、兄は苦笑するばかりで、へこたれた様子はなかった。